
統合失調症
統合失調症
脳の情報処理機能に不具合が生じることで、現実との区別がつきにくくなり、幻覚や妄想といった症状が現れる精神疾患です。発症のピークは思春期から40歳前後の若年層に多く見られますが、年齢や性別に関係なく誰にでも発症する可能性がある病気です。
脳の様々な情報処理がうまくまとまらず自分の考えと現実との境界が曖昧になっていくため、自分自身や他人、世界に対する認識が歪んでしまいます。そのため、幻聴や妄想といった症状が本人にとっては現実であるため自ら病気であると気づくことが難しい特徴があります。
周囲から見ると、独り言を言う、被害を訴える、話のつじつまが合わない、攻撃的になる、または人との関わりを避けるといったサインとして表れることがあります。これらの兆候を早期に察知し、適切な対応を取ることが回復への第一歩です。
統合失調症の原因についてはまだ完全には明らかになっていませんが、複数の要因が相互に関与して発症に至ると考えられています。
神経伝達物質の異常
脳内では神経細胞同士が情報をやり取りするために神経伝達物質が働いています。中でも、ドパミンという物質の脳の特定部位での過剰な活性が、幻覚や妄想といった中核的な症状に関与していると考えられています。また、セロトニンやグルタミン酸といった他の神経伝達物質のバランスも関係している可能性が指摘されています。
遺伝的要因
家族に統合失調症の方がいる場合、そうでない人と比べて発症リスクが高くなることがわかっています。特定の遺伝子が関連している可能性も示唆されていますが、遺伝だけで必ず発症するわけではありません。遺伝的な素因に加えて、後天的な要素が重なることが発症に影響すると考えられています。
環境的要因
成育歴や生活環境も、発症に関係するとされています。過度なストレス、社会的孤立、トラウマ体験などが引き金になることがあります。
脳の構造や機能の異常
画像診断を用いた研究では、統合失調症の一部の患者さんにおいて脳の特定の領域、たとえば側頭葉や前頭葉などに微細な体積減少や機能的な異常がみられることが報告されています。ただしこれらの変化が原因なのか結果なのかは、現在も研究が続けられている段階です。
統合失調症には、主に「陽性症状」「陰性症状」「解体症状」「認知障害」の4つのタイプの症状が見られます。
陽性症状
本来は存在しないものを知覚したり信じ込んだりする症状です。代表的なものに「幻覚」や「妄想」があります。なかでも多く見られるのが幻聴で、周りに誰もいないのに命令する声や悪口が聞こえ、それを現実的な感覚として知覚します。「他人に監視されている」「テレビで自分のことが話題になっている」「嫌がらせを受けている」といった実際にないことを強く確信する妄想も典型的な症状です。本人にとっては現実に感じられるため、周囲が否定しても強く信じ込み、混乱や恐怖を抱くことがあります。また思考が混乱し、話の筋道が通らなくなることがあります。会話に脈絡がなくなり何を話しているのかわからなくなったり、質問に対する答えが的外れになったりするなど、周囲との意思疎通が難しくなる場合があります。加えて、突拍子もない行動をとることがあるため、周囲が戸惑うことも少なくありません。
陰性症状
もともと備わっていた心の働きが低下することによって現れる症状です。主に意欲の低下や感情表現の乏しさが見られます。たとえば、これまで興味を持っていたことへの関心が薄れたり、日常生活において身だしなみや食事がおろそかになったりすることがあります。また感情の起伏が乏しくなり、喜怒哀楽が表に出にくくなったり、人との関わりを避け自分の世界に閉じこもるようになったりすることもあります。このような状態は「怠けている」ように誤解されがちですが、病気の一部として現れている症状です。
認知機能障害
記憶力や注意・集中力、判断力などの「考える力」の低下を指します。物事を覚えることに時間がかかる、目の前のことに集中することができない、日常生活の中で予定を立てたり、物事の優先順位を判断したりすることが難しいなど症状から、仕事や学業、人間関係において困難を感じることがあります。この症状は一見目立ちにくいものの、社会生活に大きな影響を及ぼすため早期の対応が重要です。
診断では、医師による丁寧な問診と行動の観察が不可欠です。患者さんご本人の訴えに加えて、ご家族や職場の方など周囲の人からの情報も取り入れながら、症状の特徴や発症の経緯、日常生活への影響などを多角的に判断していきます。
また身体的な病気(脳腫瘍、てんかん、内分泌疾患など)や服用中の薬の影響によっても、統合失調症に似た症状が現れることがあります。そのため必要に応じて血液検査や画像検査を行います。
統合失調症の治療は、主に薬物療法と心理社会的アプローチの組み合わせで行います。
薬物療法
統合失調症の治療では、抗精神病薬が主要な治療手段となります。これらの薬は幻覚や妄想といった陽性症状を軽減する効果があり、患者さんの状態に合わせて適切な薬剤や投与量を調整しながら、継続的に服薬を管理していくことが重要です。近年では副作用が比較的少なく、より継続的な服用がしやすい新しいタイプの抗精神病薬も開発されており、治療を受ける患者さんの生活の質の向上が期待されています。
電気けいれん療法(m-ECT)
通電し脳を電気的に刺激することによって脳内に発作を誘発し、精神的なあるいは感情的な障害を改善する治療法です。拒食・低栄養・脱水などによる身体衰弱、切迫した自殺の危険など、早急に症状を改善を図る必要がある場合、高齢者・妊婦・身体合併症などで薬物療法などの危険性がm-ECTの危険性より高いと判断される場合、薬物療法に反応しない・副作用のため薬物を十分量使用できないなどの場合に行われます。
心理社会的治療
心理社会的治療には、認知行動療法や家族療法、ソーシャルスキルトレーニング(SST)などが含まれます。これらの取り組みにより、病気に対する理解を深めながら、安定した生活リズムの確立、対人スキルの向上、就労支援などを通して、社会復帰や再発の予防を目指します。
統合失調症の症状は本人にとって現実そのものに感じられるため、自身が病気であると認識しにくいことが特徴です。しかし、できるだけ早期に適切な治療を受けることで、症状の緩和や再発の予防、さらには社会復帰へとつながっていきます。
家族や周囲の方が症状の兆候に気づいた際には、決して責めたり否定したりせず、まずはその人の気持ちに寄り添いながら専門医に相談することが大切です。
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