
注意欠陥多動性障害
注意欠陥多動性障害
不注意、多動性、衝動性の3つの特徴によって定義される発達障害です。多くは幼児期から小学校低学年にかけて症状が現れ、学校や家庭での生活に影響を与えます。男児に多く見られ、小学校では「各クラスに1人程度いる」といわれるほど、決してまれなものではありません。
ADHDは生まれつきの脳機能の特性によるもので、本人の努力不足やしつけの問題ではありません。成人では「仕事のミスが多い」「忘れっぽい」「人間関係がうまくいかない」などの悩みで気づかれることもあります。
また、ADHDの方は自己肯定感の低下を経験しやすく、うつ病や不安障害などの他の精神疾患を併発することもあります。
ADHDの特性により日常生活で、周囲とのコミュニケーションが上手くとれなかったり、みんなと同じことができなかったりという状況に直面します。その苦しさや生きづらさによって大きなストレスを感じます。また、その人に合ったサポートが受けられない環境、自分の特性に合わない環境などの影響により、ストレスや周囲との不適応がより高じてしまうことで、やがて精神疾患を合併したり、社会生活をより難しいものにする問題行動を起こしたりしてしまうこともあります。この状態のことを「二次障害」、または二次的な問題といいます。
二次障害は、日々傷つくことや周囲との関係性で否定的な感情が積み重なって生じると考えられています。つらい思いをする期間が長くなるほどそのリスクは高まりますので、できるだけ早い段階から適切に対応していくことが求められます。
予防・対策として、
といったことが大切になってきます。
ADHDの診断は診察で観察された行動上の特徴(不注意、多動性・衝動性)に基づいて行われ、単独で診断ができるような確立した医学的検査はありません。「生まれてからこれまでの生育歴」と「現在の困りごと」や「診察室の様子」、「心理検査」などを通して総合的に行います。脳血管疾患、脳腫瘍、てんかんなどの病気がある場合にも不注意、多動性・衝動性がみられることがあるため、画像や脳波などの検査でこれらの有無を確認したりすることもあります。
治療では、本人の特性を理解し、社会生活や人間関係での困りごとを軽減していくことを目的に、心理社会的アプローチと薬物療法を組み合わせて行うことが一般的です。
ADHDの治療の基本は、まず本人が自分の特性に気づき、適切な対応方法を学んでいくことです。専門家のサポートを受けながら、「スケジュールを立てて行動する」「生活リズムを整える」といった日常の工夫を積み重ねることで、セルフコントロール能力を育てていきます。また、社会のルールや対人スキルを学ぶ支援も行われ、人間関係のトラブルを防ぐための対応力を身につけることができます。
家庭や学校、職場での環境調整も重要で、周囲の理解と協力が治療の効果を大きく左右します。特に子どもの場合には、親御さんが適切な関わり方を知ることも支援の一環として大切です。
心理社会的アプローチを中心に進めても生活に支障が大きい場合には、薬物療法を併用することがあります。ADHDの薬は、主に脳内の神経伝達物質(ドパミンやノルアドレナリン)を調整する働きがあります。
代表的な治療薬には、メチルフェニデート徐放錠やアトモキセチン、グアンファシン塩酸塩などがあり、不注意・多動・衝動性といった症状の緩和が期待されます。ただし、効果には個人差があり、副作用の有無や日常への影響も考慮しながら、医師の指導のもと慎重に服用を続けることが重要です。
ADHDは治る・治らないという単純なものではなく、特性とうまく付き合いながら成長を支えることが治療の目的となります。特性を「短所」として捉えるのではなく、周囲の支援により「個性」として活かしていく姿勢が重要です。また、ADHDの子どもは成長とともに症状が軽くなるケースも多く、本人の努力と家族の理解、そして適切なサポートによって社会生活に必要なスキルを十分に身につけていくことができます。
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