
自閉症スペクトラム障害
自閉症スペクトラム障害
対人関係や社会的なやり取りに困難を抱えやすく、特定の行動や感覚に対して強いこだわりや敏感さが見られる発達障害のひとつです。たとえば気持ちのやり取りが難しかったり、表情や言葉から相手の意図を読み取ることが苦手であったりします。また特定の動きや習慣への強いこだわりや、音・光などの刺激に対する過敏・鈍感な反応も特徴のひとつです。
ASDは生まれつきの脳の特性によって現れるもので、幼少期から見られることが多く知的障害を伴う場合もあります。ただし特性の強さや現れ方には個人差が大きいため、就学後や成人になってから診断されるケースも珍しくありません。
日本では近年、早期からの支援体制が整いつつあり、支援を受けることでASDの特性があっても安心して社会生活を送っている方が多くいらっしゃいます。一方で適切な支援が得られず、本人の特性に加えストレスや否定的な体験によって「二次的な問題」が生じることもあります。たとえば身体的な不調(頭痛・腹痛など)や精神的な症状(不安・うつなど)、さらには不登校・ひきこもり・自傷行為など、深刻な状態に発展することもあります。
症状の程度や現れ方には個人差が大きく、「スペクトラム(連続体)」という名の通り、人によって困りごとの内容や程度はさまざまです。
ASDの方は、対人関係の中で適切な距離感を取ることが難しかったり、会話のやりとりがうまくかみ合わなかったりすることがあります。相手の表情や声のトーン、視線といった「言葉以外の情報」を読み取るのが苦手で、冗談や皮肉が通じにくい場合もあります。そのため悪意はなくても「空気が読めない」と誤解されてしまうことがあります。
日々のルーティンや物の配置、スケジュールに強いこだわりを持ち、いつもと違う状況や予想外の変化に強い不安や混乱を感じることがあります。予定が急に変更されたり、いつもと違う道を通ったりするだけでパニックになってしまうこともあります。このようなこだわりは本人にとって安心や安定を保つための手段であることが多く、無理に変えようとするとストレスになります。
五感(視覚・聴覚・嗅覚・触覚・味覚)に関して、非常に敏感であったり、逆に反応が乏しかったりすることがあります。たとえばわずかな音に強い不快感を覚えたり、服のタグの肌ざわりを耐えがたく感じたりする一方で、痛みに気づきにくい、暑さや寒さにも気づきにくいなどの傾向も見られます。これらの感覚の違いは日常生活に影響を及ぼすことも多く、適切な配慮が必要です。
ASDの方は、言葉の選び方や話し方に特徴があることがあります。例えば、会話の文脈にそぐわない言葉を使ってしまったり、自分の関心のある話題を一方的に話し続けてしまう傾向があります。また言葉を文字通りに受け取るため、比喩やあいまいな表現が伝わりにくいこともあります。その結果、周囲とすれ違いが生じたり、「変わった話し方」と受け止められてしまうことがあります。
ASD(自閉スペクトラム症)の診断は、一般的に2歳前後から可能とされています。ただし、言語や知能の発達に遅れがない場合は、診断が就学後や青年期以降になることもあります。
ASDを特定するための血液検査や画像検査のようなバイオマーカーはまだ確立されていません。そのため家庭や学校、診察時など複数の場面での本人の行動を観察し、社会性やコミュニケーションの障害、限定的で反復的な行動パターンなどが幼少期から現在にかけて持続しているかを確認します。補助的に心理検査を行うこともありますが、一つの検査結果だけでASDと診断することはできません。
ASDは発達段階によって症状の現れ方や支援のポイントが異なりますので、専門機関に相談をしながら自身の特性を理解したり支援体制を整えたりすることが大切です。
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