
社交不安障害
社交不安障害
人前で注目が集まるような状況で強い不安や恐怖、緊張を感じる病気を社交不安障害といいます。人前で恥ずかしい思いをするのではないかと不安や緊張したりすることはごく自然なことです。しかし、社交不安障害は必要以上に不安や緊張の度合いが大きく紅潮や発汗、震え、腹痛などの症状が現れる場合があります。さらに、このような症状がまた出てしまうのではないかという不安や恐怖が強くなって、外出や人と会うことを避けるようになります。その結果、登校拒否や出社拒否、人が集まる活動への参加を控えるなど、日常生活を避けるようになってしまいます。
性格の問題と混同されることもあり、症状が深刻化してしまうまで未治療のまま放置されることも少なくありません。社会不安障害は放っておくとうつ病などの引き金になる恐れもあるため、お困りの際は早めの受診をおすすめします。
社交不安障害の治療では、薬物療法と心理療法を併用しながら、症状の緩和と根本的な改善を目指していきます。
主に、抗うつ薬と抗不安薬が使用されます。
脳内の神経伝達物質である「セロトニン」の再吸収(再取り込み)を選択的に抑えることで、セロトニンの量を増やし、精神的なバランスを整える作用があります。従来の抗うつ薬に比べ、副作用が比較的少ないことが特徴で、現在では初期治療として広く用いられています。効果が現れるまでには数日から数週間かかることが多いため、継続的な服用と医師の指導のもとでの経過観察が必要です。
代表的な副作用としては、吐き気や頭痛、眠気、口の渇きなどがみられることがありますが、服用を続けるうちに軽減される場合もあります。また、急に服用を中止すると離脱症状(めまいや不安感など)が出ることがあるため、薬の中止や変更は必ず医師と相談して行うことが大切です。
脳の神経活動を落ち着かせる「GABA(ガンマアミノ酪酸)」という物質の働きを高めることで、過剰な興奮を抑え、気持ちをリラックスさせる作用があります。即効性が高いため、急な不安や不眠に対しても短時間で効果を感じやすく、広く使用されています。症状が強くて日常生活に支障がある場合や、他の薬の効果が現れるまでの補助的な治療としても有効です。
一方で、長期間の連用により「依存性」や「耐性(効きにくくなる)」が生じる可能性があるため、使用には注意が必要です。症状が落ち着いた後は、医師の指導のもとで少しずつ減量し、中止を目指すことが一般的です。また、急な中止により離脱症状が現れることもあるため、自己判断で服用を止めることは避けてください。
社交不安障害の治療においては、認知行動療法(CBT)が高い効果を示すとされています。CBTは、日常生活に支障をきたすほどの不安や緊張の原因となっている「自動思考(無意識に浮かぶ否定的な考え方)」に気づき、それをより現実的で柔軟なものへと修正していく心理療法です。
たとえば、「人前で話すと必ず失敗する」「他人に否定されるに違いない」といった非現実的な思考パターンが不安を増幅させる要因となっている場合、それらを段階的に見直し、不安と向き合いながら少しずつ自信を育んでいきます。
また、症状の程度や患者様の特性に応じて、以下のような技法が組み合わされることもあります。
不安や緊張を感じやすい状況(例:人前で話す、初対面の人と会話するなど)を段階的に体験していく方法です。安全な環境で少しずつ慣れていくことで、「避ける必要はない」「意外と平気だった」という肯定的な体験を積み、不安を軽減していきます。
人との会話や自己表現の方法をロールプレイやフィードバックを通して学ぶ訓練です。「どう返せばよいかわからない」「視線が怖い」といった対人場面での困難さを、実践的にサポートします。
不安時には過呼吸や動悸など身体の反応が強く出ることがあるため、深呼吸法や筋弛緩法などを通じて、自分でリラックス状態を作り出す方法を学びます。これは日常生活の中でも活用でき、不安が高まったときに役立ちます。
こうした心理療法は、医師や臨床心理士と信頼関係を築きながら、焦らず着実に進めていくことが大切です。一人で抱え込まず、専門家とともに取り組んでいくことで、症状の改善が期待できます。
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