
双極症(躁うつ病)
双極症(躁うつ病)
「躁(そう)状態」と「うつ状態」が周期的に繰り返され、感情の波が極端に変化する病気です。
躁状態では気分が高揚し活動的になる一方で、浪費や攻撃的な言動、過剰な自信、爽快感などが見られ、本人や周囲が困惑することもあります。一見するとエネルギッシュに見えますが、その後に強い抑うつ状態へと移行することが多く社会生活に大きな影響を及ぼします。
本人にとってもコントロールが難しく、仕事や人間関係に支障をきたすことが少なくありません。
双極症の患者数は日本では人口の約0.4〜0.7%とされており、欧米では2〜3%程度とやや高い数値が報告されています。こうした差は診断基準の違いや調査体制の未整備といった背景が影響していると考えられており、日本における正確な有病率の把握は今後の課題とされています。
また当初は「うつ病」と診断されていた方が、時間の経過とともに「双極症」と診断されるケースも少なくありません。このため実際の双極症の有病率は、統計よりも高い可能性があるといわれています。
うつ病に関しては、女性の発症率が男性の約2倍とされていますが、双極症では男女差はほとんど認められていません。誰にでも起こりうる病気であり、症状の現れ方も人それぞれです。
双極症の症状は、大きく「躁状態」と「うつ状態」の2つに分かれます。
気分が高揚し、根拠のない強い自信や万能感に満ちあふれるようになります。睡眠をほとんどとらなくても疲れを感じず、次々とアイデアを思いついては実行に移そうとするなど、非常に活動的になります。会話では多弁になり、相手の話を遮ってでも話し続けたり、話題が次々に移り変わるといった特徴が見られます。また突発的な浪費、無謀な行動、性的逸脱行為、他人に対して攻撃的になるなど、普段のその人らしさから逸脱した言動が見られることもあります。
本人には病識(自分が病気であるという認識)が乏しいことが多く、周囲からの指摘にも耳を貸さずトラブルに発展することも少なくありません。
うつ病と同じように気分の落ち込みや意欲の低下が中心的な症状となり、「何をしても楽しく感じられない」「自分には価値がない」といった否定的な感情に支配されます。集中力の低下、物事への関心の喪失、疲れやすさなどが日常生活に影響を及ぼします。睡眠にも問題が現れ、寝つけない、途中で目が覚める、早朝に目覚めてしまうなどの不眠症状が続くこともあります。食欲が落ちたり、逆に過食に走ることもあります。
また重度になると自殺願望や自傷行為につながることもあり、周囲のサポートと早期の対応が非常に重要となります。
うつ病や双極症の発症には、単一の原因ではなく複数の要因が相互に影響し合いながら関与していると考えられています。
脳内神経伝達物質の異常
セロトニンやノルアドレナリンなどの神経伝達物質のバランスが乱れると、気分や感情のコントロールが難しくなり、情緒が不安定になることがあります。
遺伝的要因
家族や親族に双極症を経験した人がいる場合、ご本人も発症するリスクが高まることが分かっています。
心理社会的ストレス
仕事や家庭での困難、人間関係の摩擦、大切な人との別れ、病気や出産など、生活の中で起こるさまざまな出来事が心に大きな負荷を与え、発症のきっかけとなることがあります。
双極症の治療では気分の波をコントロールし安定した生活を取り戻すことを目的に、薬物療法を中心としながら精神療法(カウンセリング)や生活環境の調整も含めた包括的なアプローチが行われます。病気との付き合いは長期的になることも多いため、焦らずにご自身のペースで治療に取り組むことが大切です。
双極症の治療には主に気分の波を安定させる気分安定薬や抗精神病薬が使用されます。なお、抗うつ薬を単独で用いると躁状態を引き起こすリスクがあります。
躁状態、うつ状態の両方に対して予防的に働き、気分の波を小さくする役割を担います。代表的な薬剤としてはリチウムやバルプロ酸、ラモトリギンなどがあります。長期的な症状コントロールに大切なお薬です。
気分安定薬と並行して用いられることが多く、特に躁状態の鎮静や、混合状態(躁と抑うつが入り混じる状態)に効果的です。クエチアピン、オランザピン、アリピプラゾールなどがよく使われ、近年ではうつ症状に対しても一定の効果があるとされるものもあります。
認知行動療法(CBT)や対人関係療法(IPT)といった心理療法が、うつ病や双極性障害の治療に効果的です。これらの療法では否定的な思考パターンや行動のクセを見直し、物事の捉え方を柔軟にすることでストレスへの耐性を高め、気分の安定を促すサポートを行います。
毎日の睡眠リズムを整え、栄養バランスのとれた食事を心がけることに加えて、無理のない範囲で軽い運動を取り入れることが、治療の効果を高めるうえで大きな助けとなります。
日々の生活リズムを整えて安定した日常を送ることは、心身の回復を助けるだけでなく再発のリスクを抑えるうえでも非常に重要です。
双極性障害の診断では、「過去に躁状態があったかどうか」が特に大切なポイントです。うつ症状だけをみて「うつ病」と診断されてしまうこともあるため、受診前の状況を丁寧に確認することや症状の経過を追っていくことが診断において非常に重要です。
双極症は脳の働きに関係する「病気」であり、決して「心が弱いから」「気の持ちよう」で片づけられるものではなく誰でもかかる可能性があります。
気になる症状がある場合は、早めに専門の医療機関を受診し、自分の状態を把握することが大切です。当院では心と身体の両面から丁寧に症状を伺い、患者様一人ひとりに合った治療を提案しております。ひとりで抱え込まず、まずはお気軽にご相談ください。
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